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ドン・ウィンズロウ「犬の力」

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昨年ついにエルロイのアンダーワールド・USAシリーズ三部作完結「アンダーワールド・USA」(Blood's a Rover)の翻訳版が出て読み終えた。

1998年の第一部「アメリカン・タブロイド」翻訳版から14年。小説としてはJFKからニクソンの時代までのアメリカ裏社会史を読み終えた時は充実感と共に、もうこの暗黒の大河ドラマの続きを読めないのかと寂しさも感じた。

そこで今年は「かつていちども清らかであったことのないアメリカ」に関する小説、アンダーワールドUSAを補完するような小説を読んでいこうと思ってる。

その第一弾として選んだのが、ドン・ウィンズロウ「犬の力」。これも30年に及ぶメキシコ麻薬戦争を描く上下巻にわたる血みどろの大河巨編だった。

下克上のメキシコ麻薬組織、ラテンアメリカ共産ゲリラと反共勢力、右翼のならず者、裏で糸を引くCIA。

ヒスパニックと白人のハーフで、ゲットー育ち、CIAとしてベトナム任務経験を持つ麻薬捜査官と、叔父が築いた麻薬カルテルの後継バレーラ兄弟の戦いを主軸に、NYヘルズ・キッチンのアイルランド移民の若者、イタリア系マフィアの下っ端、カリフォルニア育ちの美貌のコールガール、異端の解放派司教、主要登場人物がどれも魅力的で、濁流に飲み込まれていくかのように裏社会に巻き込まれていく背景説明も丁寧で面白い。

特に上巻では本筋とは一見無関係そうなNYのアイルランド移民の青年が殺し屋の道へと追いやられるエピソードがせつなくていい。

一見無関係そうな彼らの人生が交差し、物語は一気呵成に転がっていく。

人生を狂わせた一発の銃弾と人生を変えるための一発の銃弾。

そしてエルロイのアンダーワールドUSA三部作同様、これも三人の男達の物語だったと知る。カタルシスなんてないダークでビターなノワール絵巻。

読み終わるのがもったいないくらい面白かった。

けど、現実の麻薬戦争は、まだまだ続いているんだよな。
by runcomeplus | 2012-02-05 11:25 | 図書係
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